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第45話  

篠田初は、二十日後に松山昌平と離婚する予定なので、今後の関係は一切ないと考えれば、何もせずに立ち去ることもできた。

 たとえ今夜彼が不幸にも命を落としたとしても、彼女は第一相続人としてかなりの遺産を手にすることができた。

 しかし最終的に、篠田初はその決断を下せず、会場に戻ることにした。

 冷酷な男が自分の子供たちの父親である以上、見捨ててしまえば子どもたちに一生恨まれるだろうと考えたからだった。

 会場の雰囲気はすでに白熱していた。

 「七億円!」

 「八億円!」

 「九億円!」

 会場の名流たちは、熱心に札を上げて競り合っていた。

 競りの焦点は、篠田初が無名指から外した婚約指輪だった。

 篠田初が席に戻ったとき、すでに価格は九億六千万円まで達していた。

 「これ、どうなってるの?」

 篠田初は、その指輪が四億から六億円程度の価値しかないことを覚えていた。

 お金持ちは本当に、お馬鹿さんなのか?

 彼女は飲み物を取りに手を伸ばしながら、驚きを抑えようとした。

 その時、ちょうど松山昌平の手と触れた。

 男の指は冷たく、彼の冷淡な顔と同じように近寄りがたいものだった。

 「今夜は、あなたが随分目立っているね......」

 松山昌平は冷たい目で篠田初を見ながら言った。「妻がこんなにも寛大で、四年間も着けていた婚約指輪を、簡単に寄付するなんて知らかった」

 篠田初は落ち着いて飲み物を口にしながら答えた。「昌平さん、皮肉を言わないでください。私はただ、物を最大限に活用しただけ」

 松山昌平の目はさらに冷たくなり、抑えきれない怒りが見て取れた。

 篠田初は、もしここに他の人がいなければ、この男が確実に彼女を引き裂きそうだと感じた。

 「昌平さん、私たちは一応夫婦だったんだから、これからは壇上に上がらない方がいい。誰かがあなたに害を与えようとしているかもしれない」

 篠田初は声を低くして松山昌平に警告した。

 会場内を一巡したが、疑わしい人物は見つけられなかった。

 彼は目立つ存在だったが、敵は暗闇の中に隠れているので、非常に危険だった。

 松山昌平は警戒を強め、目を細めて篠田初をじっと見つめた。「あなたは一体何を企んでているんだ?」

 「ただの親切よ。人のアドバイスを受け入れた方が、身のためよ」

 篠田初が言えるの
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